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ER×往診 構想について(病院長寄稿)

2018.07.05

更新情報

病院長の篠崎が機関紙に寄稿した内容を一部紹介いたします。

ERが往診するという提案に目から鱗 密度の濃い地域連携が不可欠な時代に 「生命の価値は平等」の自覚・再認識を

「救急を断らない。いつでも、どんな状況でも、いかなる主訴でも、すべての患者さんを受け入れる」。レジデントドクターたちの熱意ある診療、そして、それを支えるスタッフドクターたちのバックアップにより、すべての患者さんに対し、適切な医学的評価と治療を行う。そこには軽症、重症、診療科などの区別はありません。救急患者さんの多くは、自分が重症だと思って来院されるわけですから、若い医師には、すべての主訴を受け入れるための教育が必要です。疾患ではなく、すべての主訴である点が重要です。さらに患者さんを支えるご家族や、家庭環境に気を配る大切さも学ぶことが求められます。

家庭と病院との距離感を解消 患者さんは環境変えずに療養

「私はずっと前から、ER(救急外来)で往診をしたかったのです。救急要請があって当院に運ばれる前に、こちらから往診したい。ERの看護師さんたちも協力してくれると言っています」。これは当院の山上浩(やまがみひろし)・救命救急センター長の発言です。

イノベーション(革新)の始まりを予感した瞬間でした。当院の診療情報管理室から、毎年、入院患者さんの平均年齢が約1歳ずつ上がってきていること、ERに搬送され入院となった患者さんの年齢中央値が80歳を超え始めていること、地域の高齢化率が31%に近づいてきていることを聞いていました。一方、30年間変わることがなかった病院のあり方について、このままで良いのか、少子高齢化の人口ピラミッドを象徴する世の中の変化に、当院は対応できていないのではないか、という思いが募っていました。

夜間発症した病気に対し、多くの高齢の方々は救急車を呼ぶしか選択肢がありません。日中はかかりつけ医が往診しますが、夜間はそう簡単にはいかないことがほとんどだからです。当院に運ばれた高齢の患者さんは安堵(あんど)される方が多いようですが、なかには入院後、環境の変化にとまどい、食欲をなくし、入院が長期化する方もいます。それなら、夜間の発病は私たちが往診し初期評価、初期治療をしようというのが山上センター長の考えです。かかりつけ医との連携があれば、住み慣れた家で十分療養できるかもしれません。病院と家庭との距離感を解消し、また病院が、かかりつけ医と連携することで、患者さんは環境を変えずに安心して療養できるはずです。

家庭と病院との間にあると言われる精神的距離感、深い谷のような溝の解消が鍵です。ERが地域にさらに近づくことで、救急車を病院で待っている私たちの姿勢が大きく変わる可能性があります。私の今までの感覚では、ERと往診とは診療体制のなかで一番距離があると考えていましたが、まさに目から鱗でした。今でも病院の構造は決して高齢の方に優しいものではなく、とくに急性期病院では掲示物、呼び出しをとってみても、まだまだ配慮が十分とは言えません。

ERからの夜間の往診が、これからの地域医療で、急性期病院のあり方を大きく変えるイノベーションの突破口になるかもしれません。現在、当院では年間1万3000台を超す救急車と数十機のドクターヘリを受け入れています。横浜市消防局と横浜市立大学による共同研究「2030年までの救急需要予測」を参考に試算すると、約10年後には当院への救急搬送が年間1万8000台を超すことが予想されます。ますます地域の医療機関との連携・情報共有が重要となります。かかりつけ医と同様に、病院の医師が患者さんの家庭に出向いていくこともさらに必要となるでしょう。

これからの長寿時代を見据え 年を重ねることに価値見出す

「価値」の創造が問われつつあるなかで、残念ながら現代社会ではいまだに貨幣価値にスポットが当たりやすいのが実情です。つまり、納税者に価値があり、消費する側の立場、とりわけ医療費を消費する弱者は、ますます肩身の狭い思いをすることになります。私たちは、すでにある人口ピラミッドをもう変えることができません。今後、貨幣価値だけでは社会が成立しなくなることは明白です。これからの長寿時代を見据え、年を重ねることが価値になる社会を創造していかなくてはなりません。私たちの理念は〝生命だけは平等だ〟。生命の価値は平等だということを、自覚、再認識していくことが肝要です。

病院長 篠崎 伸明

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